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前立腺癌に対する密封小線源永久挿入治療

昭和大学医学部 泌尿器科学講座
密封小線源永久挿入治療(シード治療、ブラキセラピー)とは

当院では、前立腺癌に対する放射線治療として外部照射だけでなく、密封小線源永久挿入治療(シード治療、ブラキセラピー)を積極的に行っています。
この治療は、ヨウ素125が封入されたチタニウムカプセル(シードと呼ばれています)を、直接前立腺に挿入する放射線治療であり、限局性前立腺癌(転移のない前立腺癌)の治療選択肢の一つです。従来の開腹手術やロボット手術と比較して低侵襲(体への負担が少ない)な治療法にも関わらず、優れた治療効果があることが欧米を含めた多くの報告から実証されています。現在日本では年間約3000人の患者さんがこの治療を受けています。
日本では放射線に関する厳しい法律規制が存在したことから、この治療の導入は2003年から始まりました。しかし、米国では1980年代より行われており、長期の良好な治療成績が数多く公表されています。現在では、限局性前立腺癌の標準的根治治療の一つとして確立し、数多くの患者さんが治療されています。

昭和大学医学部 泌尿器科学講座
シード治療の実績

昭和大学病院では、泌尿器科と放射線治療科が連携して、2005年から密封小線源永久挿入治療を開始し、昭和大学江東豊洲病院と合わせて現在(2021年12月)まで約1500例の治療を行いました。

昭和大学医学部 泌尿器科学講座
シード治療の特徴
1:重篤な放射線性副作用の発生頻度が低い

シード治療では、放射線を発するシードを直接前立腺内に埋め込むので、シードから出る放射線の範囲が前立腺およびその周囲に限られ、隣接する放射線感受性の高い臓器(膀胱や直腸)への影響を少なくすることができます。また、前立腺癌治療後の合併症として、尿失禁と勃起機能喪失の問題があります。シード治療のみ行った場合(低リスクの方)、前立腺全摘除術と比べそれらの発生率はかなり低い(10%程度)とされています。発生率は、放射線を当てる量に比例して増加するとされており、放射線の外部照射治療を併用した場合(中間リスク~高リスクの方)には、 合併症の発生率は多少上昇すると報告されています。しかし、直接的に勃起や失禁を司る神経や筋肉を損傷したり切断するものではないので、依然、尿禁制並びに性機能が保たれる可能性は高いといえます。

2:より確実な照射が可能

前立腺は腸管運動や膀胱にある尿量の影響や筋肉の緊張・緩みで1~2cmは簡単に動くとされています。そのため外部照射の放射線治療では、照射部位が毎日微妙にずれていく可能性があります。しかしシード治療は、直接前立腺内に線源を挿入するので、前立腺の動きに関係なく照射を行うことが可能です。

また、癌が前立腺被膜(前立腺の外側を覆う組織)からはみ出していることが予測される状態でも、被膜外5ミリ程度の範囲まで高い線量が分布するように治療計画を行いますので、開腹手術では対応できない被膜外浸潤癌にも治療効果があるとされています。

3:身体への負担が少なく、早期の社会復帰が可能

身体への負担は少なく早期の社会復帰が望めます。海外では法律の規制が緩いので、外来での日帰り手術も行われているほどです。日本では、個室入院が放射線障害防止法により義務付けられていますが、入院期間は当院では3泊4日です。

ちなみに手術による根治術(当院ではロボット支援下腹腔鏡下前立腺全摘除術)では通常10日程度の入院が必要で、また外部照射の治療では7~9週間の期間、ほぼ毎日の外来通院が必要になります。

治療費用に関しても保険診療が適応となる治療です。

この治療法は基本的には、転移のある前立腺癌の方は対象になりません。

局所にとどまる転移のない前立腺癌の方にとっては、体の負担が少ない治療法ではありますが、治療後の副作用がないわけではありません。

放射性物質を使用する治療の性質上、手術後に患者さん御自身に御協力いただかなくてはならないこともあります。放射線障害防止法の法規制に準じて、一時的放射線管理区域と指定された個室への入院が必要です。一時的管理区域指定とは、通常の一般個室部屋を一時的に放射線管理区域として指定することであり、特別な部屋への入室が必要なわけではありません。

入院中の注意事項に関しては、医師、病棟看護師から繰り返しご説明致します。基本的に法的規制に準拠するよう簡単な注意事項を守っていただく必要がありますが、過剰にご心配する必要はありませんのでご安心ください。

 

シード治療の性質から、治療ができないか、慎重な判断の上で治療を行う必要がある場合があります。

詳しくはこちらをご確認ください。

シード治療のしくみ

小線源治療には様々な種類がありますが、前立腺癌密封小線源永久挿入治療は、一般には“シード治療”、または“ブラキセラピー”などと略称されます。

癌細胞に放射線を集中的に照射

シード治療は、前立腺という治療の対象臓器自体に放射線を発する物質を埋め込むことで、より近くから効果的に放射線を使用したいという考えに基づいています(通常の放射線治療 ― 外部照射は、体の外から照射します)。

現在用いられているヨウ素125というシードは、ゆっくりと低い放射線を長い期間かけて放出するという特性があります(主に効果を発揮するのは約2ヶ月間で、全く放射線が放出されなくなるには約1年を要します)。

放射線の作用について

放射線の作用は、シードの周囲のわずかな範囲にしか及びませんので、前立腺の周囲にある放射線感受性の高い正常臓器(直腸、膀胱、尿道)への影響を抑えることができます。

またそのさらに、最新のコンピュータ技術を用いて、前立腺とその周囲数ミリには高い線量がかけられるように緻密に放射線の分布を計算して行われます。

中間リスク・高リスクの前立腺癌にも併用

リスク(後述します)の低い前立腺癌だけをシード治療の対象とするのではなく、中間リスク、さらに高リスクの前立腺癌にもホルモン療法や外部照射と組み合わせた集学的な小線源治療を行っていることです。

シード治療の対象となる方・リスク分類

本治療は局所にとどまる前立腺癌の方が基本的な対象です。

したがって、治療前に①CTスキャン、MRI、骨シンチグラフィーなどの画像診断で癌の浸潤、転移の有無を評価しなければなりません。また、②血清PSA(前立腺特異抗原)値、③前立腺生検で採取した組織の病理組織診断結果(グリソンスコア)が、治療の組みたての重要な判断材料になります。

 

①~③の結果を総合して、局所にとどまる前立腺癌の中でも、3~4段階のリスク分類を行い(表1)、シード治療のみを行うか、シード治療に加えて放射線の外部照射治療やホルモン療法を併用して治療するかを判断します(表2)。

(表1)代表的なリスク分類を示しています。

(表2)患者さん個々のリスク分類により、治療を以下のように決定します。

基本的には、低リスク群に分類される方にはシード治療の単独治療、中リスク群に分類される方には、シード治療に加えて放射線の外部照射(45グレイ)か短期のホルモン療法を追加します。高リスク群の方は、シード治療のみでは病勢のコントロールが難しく再発リスクが高いとされ、当院では、シード治療に外部照射(45グレイ、骨盤部)と長期ホルモン療法(約2年)を加えて治療しています。

高リスク群には、シード治療は行えないとする施設もありましたが、我々はこれらの3者併用療法に早くから注目し、2005年から開始しています。その結果、高リスク群に対しても良好な治療成績を得ています。この方法は、2011年からNCCNという米国機関の治療ガイドラインでも高リスク群に対する推奨治療の一つとして掲載されるようになりました。

シード治療ができない方、慎重な判断が必要な方

以下に記載したような方はシード治療の性質から、治療ができないか、慎重な判断の上で治療を行うことが必要です。当てはまる方は、担当医師とよく相談するようにしてください。

シード治療ができない方、慎重な判断が必要な方
1:過去に前立腺肥大症の内視鏡手術(経尿道的前立腺切除術)を受けた方 

この手術で切除した前立腺組織が多い方は、シード治療の適応にならないことがあります。
しかし、切除した組織が少ない場合は治療可能です。内視鏡手術後に小線源治療を受けると、尿失禁の合併症の発生率が増加すると言われていましたが、最近はあまり変わらないとされています。

2:前立腺体積が顕著に大きい方

著しい前立腺肥大のかたは、骨盤の形状により手技的に適切にシードを留置することが困難な場合があり、術前にホルモン療法をおすすめすることがあります。ホルモン療法を術前に行うと、約30%の前立腺体積の縮小が期待できるとされています。しかし、著しい前立腺肥大の方は、十分な前立腺体積の縮小が認められない場合もあり、その際はシード治療が困難なこともあります。

3:下肢の挙上、開脚が不可能、あるいは不十分にしかできない方

手術台上で十分な砕石位(両足を広げたお産のときのような体位)が難しい方は、シードを適切に挿入することができないために治療が行えません。

4:大きな前立腺結石の存在や、解剖学的な恥骨弓角度の問題(骨盤が小さい、狭い)が判明した場合

これらに該当する方も、治療の性質上、適切にシードを留置することが困難と予想され、適応とならないことがあります。これらは超音波検査、またはCTスキャンで評価します。

5:出血傾向を招く薬剤を常用しており、その服用を手術前後の一定期間中止することのできない方

アスピリンなど血液をサラサラにする薬を内服している場合、シード治療の前後の一定期間は服用を中止する必要があります。心臓のステントを挿入した直後など休薬がどうしてもできない場合には予想外の出血のリスクがあるため基本的には治療できません。シード治療前に中止が必要な薬剤の該当品目については担当医師に相談してください。また、服用中止の可否は、薬を処方している医師の判断によって決定されます。また、お薬の中止が可能であり、中止指示されたにもかかわらず、中止することを忘れてしまった場合には予定日にシード治療を行うことができなくなりますので十分注意してください。

6:前立腺癌以外の病気があり、麻酔や手術施行に危険のある患者さま

重度の糖尿病、心疾患、呼吸器疾患などをお持ちの方が該当します。

7:その他、担当医が適応外と判断した場合

医師の指示に従ってください。

シード治療の方法・流れ

入院翌日に治療を行います。治療は放射線治療室内で行います。
腰椎麻酔(麻酔方法は患者さんの状態によって変更になることがあります)後に、砕石位(両足を広げたお産のときのような体位)となり、肛門から超音波装置を挿入して手術開始です。
超音波画像と連動した治療画像装置で手術中にシードの配置を決め、経会陰的(股の間の皮膚から)にシードを挿入します。挿入するシードの個数は50~00 個ですが、前立腺体積によって異なります。
手術時間は1時間~2時間程度です。
術後の排尿管理のために尿道にカテーテルが挿入されて手術終了です。

昭和大学医学部 泌尿器科学講座
退院後

入院4日目に退院です。個人差はありますが、一定の注意事項を守っていただければこの日から就労や運動は可能です。シード治療後は前立腺に挿入されたシードから、約1年間弱い放射線が出ることになります。周囲の方に有害なものではありませんが、術後2か月間程度は特別な注意事項があります。治療日から1年以内になんらかの原因で亡くなった場合には、火葬の前にシードが挿入された前立腺を摘出する必要があります。また患者さんは退院時にお渡しする患者治療カードを1年間は運転免許証などと一緒に携帯して下さい。

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